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犬の悲鳴は変貌したテーマパークに虚しく響く

2021.04.17.Sat.21:00
薄暗い部屋の角に、白い犬を模した着ぐるみが置かれている。それは、ここがテーマパーク内に存在する倉庫であることを考えれば何の違和感も無い光景だ。その倉庫へ何かしらの道具を取りに来る者がいたとしても、ほとんどは着ぐるみに対して何の疑問も抱きはしないだろう。
だが、その着ぐるみは異常な状態にある。ほんの少し目を凝らせば、目を凝らさずとも倉庫の電灯を点ければ、すぐに気付ける異常が着ぐるみにはある。あどけない表情をした犬の着ぐるみは、ふわふわの毛の上から縄を打たれ手足をきつく縛られている。そして、縄に拘束された着ぐるみはその内側からくぐもった呻きをか細く漏らしながら、どうにかして自由を取り戻そうと試みる身悶えを必死に繰り返しているのだ。

「うぅ……ん、もぉ……!」

言葉を発せない口で苦しげに声を発しながら、犬の着ぐるみに閉じ込められた存在が上半身を壁に寄りかからせた体勢で分厚い綿に包まれた手足に力を込める。閉ざされた視界と部屋の壁の向こうから聞こえてくる何も知らずにテーマパークを楽しんでいる者達の声を耳にしながら、哀れな犬は背中で左右の手首と二の腕同士を遊び無く括られた腕と足首と太もも同士を短く結合された足をもがかせ、危機からの脱出を図る。
けれど、手足の縄は緩む気配すら見せない。着ぐるみから抜け出そうと足掻きに足掻いても、その行動は逃げ場の無い着ぐるみ内に熱を溜め込み、自力では逃れられない事実を改めて思い知らせながら犬自身を余計に追い詰める暑さという責め苦を加速させるだけだ。

「ふぅ、んふっ、むおぉ……っ!」

全身に汗をかいた裸体を諦め悪く動かしながら、惨めな存在は縄と犬からの解放を欲し続ける。熱と疲労で憔悴しきった心と身体を酷使しながら、身動きを大きく制限された存在は状況の好転を願って抵抗し続ける。
しかし、幾ら頑張ってみてもその全てはやはり無駄で、捕らわれた犬は数時間前に自分を放置した男達が倉庫へと帰還する時を迎えてしまった。
それは、地獄の始まりを意味する無慈悲な合図。非道な組織の手に堕ちた男を絶望へと叩き堕とす冷酷極まりない合図だ。

「ただいま、そしてウチのテーマパークへようこそ、探偵さん」
「もうすぐ、ウチの組織と交流のある素敵な趣味を持った金持ち達向けの夜の営業が始まるからよ。そこで新入りとしてたっぷり探偵さんを可愛がってやるぜ」
「探偵さんが探してた行方不明のガキ共もいるからよ。そいつらの前でじっくり嬲って、ガキ共と探偵さん自身に俺達を儲けさせる為の無様なペットに堕ちたことを理解させてやるよ。媚薬入りの水で水分補給させて、補給した分が全部出てくくらいにイき狂わせて、探偵さんが情けなく鳴き喚くところをお客様と反抗的なガキ共に見せてやるからなぁ……愉しみにしてろよ?」
「うぁっ、おうぅっ……!!」

数人がかりで無理矢理に立たされ、縛められた足でぴょんぴょんと跳ねる形での移動を強要されながら。助け出そうとしていた行方知れずの少年達と同じ立場に追いやられた己に不甲斐なさを感じつつ、着ぐるみの内側に突き出た棒を喉近くまで噛まされた口から屈辱色の鳴き声を上げながら。探偵と呼ばれた男は熱に浮かされ朦朧とする意識で悪を肥えさせ歪んだ嗜好を有する者達を悦ばせる抗いを禁じられた犬にされた事実を把握し、恐怖と戦慄で全身を凍り付かせた。

「うぅ! あむっ、あぉぉぉ……っ!」

跳躍させられつつ連行されていく犬の救いを請う悲鳴はもちろん誰にも届かず、子供達に夢を与える場所から醜悪な者達の欲望を満たす場所へと変貌した一般客のいない夜のテーマパークに虚しく響き、愚かにも自分達を嗅ぎ回った探偵を捕獲した悪の男達に、これ以上無い愉悦を味わわせていた。






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